刑事弁護人は,多方面にわたる活動を行います。ドラマや映画で出てくる刑事弁護活動は,氷山の一角に過ぎません。

(1) 接見(面会)

  まず,被疑者・被告人と接見し,どういう疑いをかけられているのか,その疑いは真実なのかを本人に確認します。その他,取調べに対する対応の仕方や,困ったことがないか,健康状態等を具体的に聞き取りします。

  身柄拘束を受けると,身体の自由を制限されるだけでなく,外部との連絡も著しく制限されます。このことは,被疑者・被告人にとって,想像をはるかに超える不安や精神的苦痛をもたらします。その結果,自ずと,自分の話を聞いてくれる捜査官に迎合しやすくなり,捜査側の思うがままの調書がとられてしまうことにもつながりかねません。

  弁護士の役割は,被疑者・被告人を弁護することだけでなく,被疑者・被告人の話をよく聞き,被疑者・被告人が抱える不安や精神的苦痛をできる限り除去することも含まれます。

(2) 担当警察官,担当検察官との交渉

  被疑者・被告人が,事実を否認している場合,不必要な勾留がなされていると考えられる場合は特に,担当警察官や担当検察官から情報収集するとともに,様々な交渉を行います。冤罪防止はもちろん,必要限度を超えた身柄拘束は,基本的人権侵害のおそれがあります。弁護士が国家権力と戦う一場面であり,弁護士業務の原点ともいうべき活動です。

(3) 被害者との交渉

  被害者のある犯罪の場合,そして,被疑者・被告人が事実を認め被害弁償をする意向がある場合,被害者と交渉して,適切な被害弁償を行い,示談をとりつけることも,刑事弁護人の欠かすことのできない弁護活動です。

  被害者の処罰感情は強いことが多いですので,示談をとりつけるのはそう簡単なことではありません。被疑者・被告人の立場に立ちつつも,被害者に対しても弁護士として誠意ある対応が求められるところであり,慎重な対応を要します。

  どんなに誠実に交渉しても,応じてくれない被害者もおられますが,謝罪及び被害弁償の提案をしたという経過だけでも裁判で立証することにより,被告人の反省を示すことができます。

(4) 法的な書面の作成

  検察官に対して,身柄の早期釈放を求める意見書を書いたり,裁判所に対して,保釈を求める保釈請求書を書いたり,公判(刑事裁判)で,弁護人としての意見(弁論要旨)を書いたりします。弁護人としての活動の中核的部分といえます。被疑者・被告人の法的知識を補い,裁判官や検察官という法律の専門家に対して対等に意見を主張をするための大切な一面といえるでしょう。